初の近代型ワンステップ低床車A900型を投入した後、市内線は新車導入より既存車両のリニューアルを主眼に据えた政策を行っていた。これは当時まだ比較的在籍車両の車齢が浅かったこと、オリンピック直後から建設工事が始まった市電東豊線との連携を主にした苗穂西線や西3丁目線の建設など、車両への投資を先送りにせざるを得ない状況が続いていたことが有るため、車両全体の質を上げる方向でリニューアルを…と言う考えであったと思われるだが、A900型4編成導入でA850型は置き換えられたものの、同じく老朽化していたA800型や810型、設計に無理が有った為に使いにくい車両であったものの、輸送力不足のため運用が続けられていたディーゼル車改造型連結車A870型などは早期の置き換えが必要である…と言う意見が交通局内では早い時期から出ていたのは確かであった。
また、1987(昭和62)年にフランスはグルノーブル市に新設された市電用のアルストム製超低床車両の存在も、A900型で「楽になった」とは言えど車椅子や高齢者に取っては乗り降りが大変である…と言う不満が出ている事を知る交通局と東急車輛に取っては引っかかる存在ではあった。
特にグルノーブル市電車両の超低床方式は東急車輛スタッフを大きく刺激し、遂に1988(昭和63)年。A800、870型置き換え用目的によるA900後継車の開発はスタートを切った。
当初はグルノーブルの65%低床に対してワンマン運転を可能にすることを目的として100%低床の単車2両を連結したようなスタイルが検討されたが、車軸レスになってしまい駆動機系統やブレーキ系統が特殊で実車による試験を行うには時間がないこと等から、ツーマン乗務+パッセンジャーフロー方式によるグルノーブル車と同じ65%低床方式を採用することとなった。だが、低床面積を少しでも増やす観点から両端の動力台車を動軸のみ通常車輪とし、従軸側の車輪を通常の610mmに対して380mmと言う超小径車輪とした台車を採用し、台車部分を「階段」ではなく「スロープ」として有効面積を増やせる設計とした。が、座席配列が高床部分をクロスシートとしたため、この設計は返って無駄になってしまった側面もある。中間台車は国産初の無車軸方式を採用し、低床部を可能な限り広げることに貢献している。この無車軸台車はアルストム車がいくつかの面で特許を取っており、その特許に抵触しないように設計するのがかなり大変だった…と言う逸話が残っている。
車体デザインは高張力鋼の加工技術向上も有ってA900のそれよりも車体限界を考慮したやや丸みを帯びたものとなり、A820/830型を近代化したような印象のマスクとなっている。また、市電市内線用車両として初めての冷房を搭載し、一部を除いて窓を固定式としているのも特徴である。
車内は札幌市電としては初めてスタンジョンポールを採用したほか、入り口周辺のポールを円形にすることでつり革を円形に配置し、乗客の余裕を保ちつつラッシュ時の詰め込みにも対処できる構成となっている。メカに関してはVVVFインバーターがGTOサイリスタによるものと成っているほかは、基本的にはA900型の小改良にとどまっているが、インバーターの性能向上に伴いA900型に比べて勾配や急加速・減速性能は格段に向上した…と現場では評価されているらしい。車内内装は運転席に関してはハンドルの横軸化やモニター装置の設置、バックミラーに代わって後方CCDカメラの設置、行き先表示幕のLED化などかなりの面で新しいものが搭載されており、近代的なLRVとしてのイメージをより確固たるモノにしているだろう。
A910型は1989(平成元)年10月に試作1編成が、翌1990(平成2)年に2編成、1991(平成3)年に3編成が導入されてA800、870を完全に置き換え、札幌市内線の低床率を大きく引き上げることに貢献した。その後1995(平成7)年の札幌市交通局CI政策で塗装をバークグリーン+アイボリーのツートンに切り替えた他、2002(平成14)年の交通バリアフリー法施行に伴う車椅子スペースと外付けステップの設置、2003(平成15)年の車内チケットキャンセラー設置によるワンマン対応改造で車掌台スペースを撤去するなどの改造を受けつつ、現在も市内線の主力として活躍を続けている。
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