人口100万以上の大都市としては世界でもまれに見る大雪地帯である札幌。その中でも積雪量の多い南区を走る定鉄は近代化以前から「雪との戦い」は付いて回る問題であった。
地下鉄との相互乗り入れ・南平岸〜真駒内南町間および平岸線の高架区間は当時建設の進んでいた東北新幹線と同様の開床式路盤(これは将来の北海道新幹線における雪対策の実験も兼ねていた)を採用することで「除雪車要らず」の環境を作っていたものの、真駒内南町以遠の地上区間は冬季の除雪は必要な環境であった。
当初は貨物輸送を行っていた当時から存在していた電気機関車ED500型とキ100型ラッセル車の組み合わせを中心に、モーターカーによる機動性を重視した除雪体制を組んでいたものの、札幌田園都市計画による石山・藤野・簾舞地区の人口が増加していくにつれて、道路事情が悪化する一方、輸送需要が増える冬季に列車運転本数を間引かねばならない事に対する問題が生じていた。
これに対しては、大型モーターカーに保安機器を搭載し「機関車」扱いとして導入することで「線路閉鎖」せずに除雪列車を走らせられる区間を増やすと共に、平岸線開業以降は国鉄(JR)よりDD14型ロータリー除雪機関車およびDD15型ラッセル除雪機関車を借用して緑ヶ丘検車区に常備するなどの対策を行っていた。このため、1995(平成7)年の深名線廃止時に全廃となるはずだったJR北海道のDD14型は、定鉄貸し出しのために後継となるDBR600型が増備されるまでの間、312号機のみが2000(平成14)年まで生き残ることとなってしまっていた。だが、DBR600型は積雪量が比較的少ないJR函館本線・千歳線では十二分な実力があったものの、降雪量が多く列車密度の高い定鉄線では排雪量・運転速度ともに冬季運転本数を増やすには力不足の感あり…と言う意見が保線サイドからは上がっていた。
だが、冬季にダイヤへ与える影響を最低限に抑えられる除雪能力を持った車両となると、DD53型並みかそれ以上の高性能車が求められる事であり、とてもではないが一地方私鉄である定鉄には無理な注文であった。このため、とりあえずの対策としてJRと同型のDBR600型を2両配備するほか、それ以下の出力ではあるものの、機動性に富んだモーターカーを機関車扱いとして多数配備していたが、速度の遅いモーターカーによる排雪はダイヤを大きく損ねるものであった。
ところが、2007(平成18)年春に鉄道総合技術研究所(JR総研)および独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、折りより研究開発中であったハイブリッド鉄道車両の実地試験の一環として、札幌市電市街線においてJR総研および川崎重工製2種類のハイブリッド連接車の試験を行うのと並行して、JR総研が研究中であったフライホイールハイブリッドの実車試験を定鉄で行う、と発表したのであった。
このために開発されたのが、日本初のハイブリッド機関車EDR2000型である。特徴としては、市街線において試験された2種類のハイブリッド電車が2次電池と呼ばれる化学反応によって電力を蓄えるオーソドックスな電池を採用しているのに対し、EDR2000は機関車の大出力に対処するため、電力を運動エネルギーの形で蓄える「フライホイール蓄電装置(FWB)」を中心にしたハイブリッドシステムを採用していることである。フライホイールは電力貯蔵密度が2次電池に比べて高く、急激な充放電に対応できる、寿命が長いなどの利点をもつ一方、鉄道車両に積載できるだけの容量を持たせるとなると容積が大きくなるため、電車・気動車が主体の日本国内ではハイブリッド鉄道車両用バッテリーとしては使いにくい印象があった。
そういった中で、気動車や電車ではなく機関車を使った試験車両の開発を…となったのは、JR貨物が老朽化が進んでいたDE10および本州内で運用されるDD51の後継としてハイブリッド機関車の開発を進めていた事が挙げられる。だが、2次電池では機関車に必要とされるだけの量を積むとなると却って重くなることがわかり、機関車用としてはFWBの方が優位では?と言う意見が上がっていたこともあり、「日本一過酷な環境を走る私鉄」とも言われる定鉄が試験区間の一つとして選ばれたのである。
ハイブリッド方式の試験案としては、電気式ディーゼル機関車をベースとしたディーゼルハイブリッド方式、電気機関車としての機能も持ったトリプルハイブリッド方式、電気機関車の電力回生ブレーキ電力を架線に戻さず蓄電するハイブリッド電気機関車の3種類が検討されたが、定鉄・札幌市営側は保線用として用いていたED5001の置き換え用としての用途も求めていたため、最も高価かつ複雑とも言えるトリプルハイブリッド方式の試験が行われることとなった。
機関車としての性能は、「時速20km/hで走行しながらロータリー排雪を行える事」とされ、なおかつ牽引力・運転速度ともDD51型並みかそれ以上と言うことが開発主体のJR貨物から求められていたこと。さらに開発期間短縮とコストダウンのため、JR貨物の既存車両と可能な限りパーツを共用化することを目的として、エンジン・発電機・制御機器類はDF200型で実績のあるコマツ製SDA12V-170-1と東芝製電装機器を基本とし、台車も両端動力台車はFDT100型、重量増大に対して軸重をDD51型以下にするために装備された中間台車はDD51廃車発生品のTR106Aを用いるなど、奇をてらわないオーソドックスな構成となっている。
定鉄へ導入された車両はこれに加え、除雪装置を駆動する観点からエンジンが発電機へつながる軸の前に特殊な変速機へ繋がっており、この変速機を介してドライブシャフトが除雪装置を駆動するために設置されている。一時は除雪装置の電動化も検討されたが、除雪時の負荷に耐えられる電動機はコスト・重量の両面で無理と言うことで、本来無駄ではあるが機関からの直接駆動方式が取られたのである。
除雪装置自体は車体を製造した川崎重工は除雪機のノウハウを持たないため、日本除雪機製造製の4段階可変式マルチプラウ除雪ヘッドが装着されている。これはJR東日本が導入を進めている新潟トランシス製モーターカーENR1000型同様、プラウの羽根を変形させることにより複線ラッセル(右・左)・単線ラッセル・ロータリーの4種類を兼ね備える機能を持った汎用除雪装置である。日本除雪機製造は以前よりJR北海道向け除雪車などに複線・単線ラッセルを兼ね備えられるマルチプラウ方式を納入してきたが、新潟トランシスが持っていた特許に抵触しない形でプラウをロータリーのマックレー(掻き寄せ)羽根へ変形させる機能を追加するのは大変であった…と言う話が残っている。
機関車の車体は夏季の工臨運用、あるいは試験車両牽引時に乗員の移動あるいは地下線での昇降を容易にする観点から、近年の車両としては珍しく大型のデッキを備えている。これにより、いかつい印象を与えるデザインになっているのが特徴であろうか。全長は中間台車装備の関係からF級電気機関車並に大型化し、除雪ヘッド装着時の全長に至ってはEH500すら上回る巨人機になってしまっている。
機関車本体は他地域で試験される試作車に先駆けて2007(平成19)年9月に川崎重工神戸工場で竣工後、札幌に回送されて先に日本除雪機製造にて制作されていたヘッドと合体。苗穂工場にてディーゼルエンジンのみでの動作テスト後、2007年11月から定鉄本線にて長期試験が行われている。
定鉄本線での試験を兼ねた運用においては、そのDD53型に匹敵する排雪能力と走行性能で真駒内南町〜定山渓温泉間において冬季の間引きダイヤを取る必要が少なくなり、さらにラッシュアワーにおいて大雪となった場合でも、遅れの発生を大幅に減らせるなどの功績を上げている。また、登場後間もなく地元TV局の取材を受け、それが全国区で放送されたこともあり、定鉄の基地公開日などでは子どもたちの人気の高い車両である。(TVなどで放映される際、なぜかBGMがロボットアニメや特撮などのファンファーレ的な曲を決まって流されるのは定鉄としては戸惑いがあるようだが)試験終了後も引き続き定鉄ではリースによる運用継続を求めており、今後も定鉄の冬の守護神として活躍が期待されている車両である。
■コメント■
定山渓鉄道2003史上最強のトンデモ車両かもしれない「トリプルハイブリッド機関車」EDR2000型、ようやく公開です(笑)
これを思いついたのは一年半ほど前、北武急行さん所の掲示板にて「平成生まれのデッキ付き電気機関車」と言う話題があり、その中で自分が「トリプルハイブリッド電気機関車」というネタを思いついて考えたのが運の尽き、その後除雪車両などのデータをかき集めてようやく形にできました。
電気式ディーゼル機関車としても使える電気機関車、と言うのはスイスはレーティッシュ鉄道に居るGem4/4というのがありますが、それをさらに暴走してハイブリッド化してしまいました。将来的にあり得るかもしれないけど、かなり無茶なコンセプトなのは確か(笑)せめて説得力を上げようと、国土交通省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)・JR総研が絡んでる事にしてますが・・・実際、JR総研はFWBをコアに据えたハイブリッド車両の開発を進めてますし、決して嘘800で固めた絵空事にならないよう、気を付けてるつもりなんですがね。説得力を上げようと、ハイブリッド以外の部品は可能な限り既存の車両の物を使ってますがね…。
車体に関しては、割と実用本位の設計としてます。試験車両ゆえに凝ったデザインはあまり考えにくい…と言うかコアとなるシステムが金掛かるものだし、あまり凝ったものはできんだろう、と言う気持ちもあるしね(^^;パンタグラフがPS22なのもそれです。本来ならEF210用のシングルアームでも良いのですが、できるだけパーツに関してはオーソドックスにまとめる方向でやってますので。
除雪ヘッドに関してはENR-1000型とDBR600型のキャブを合体させたようなデザインとしてます。除雪装置に関しては新潟トランシス製にするか、地元札幌の企業と言う事で日本除雪機製造にするか悩みましたが、結局日本除雪機製造製と言う事にしてます。除雪装置の機構考えたら新潟製の方が正しいのですが、やはり「北海道」って事を考えると…。
どちらにしても、この車両ほんと「化け物」になってしまいましたよ…もっとおとなしくするつもりだったのに。
製造初年 | 2007(平成19)年 | 台車形式 |
動力台車:FDT-100型 付随台車:TR-106A型 |
改造初年 | エンジン形式 | コマツ製SDA12V-200-1 1基 (V型12気筒 インタークーラーターボ搭載 2000ps/2000rpm) |
|
全長(連結面間距離) | 19,000mm(除雪ヘッド両端接続時26,500mm) | 電動機・駆動形式 | FMT-4型(565kw)x4基 |
全幅 | 2,800mm | パンタグラフ形式 | PS-22C(直流用下枠交差型) |
全高 (パンタ折り畳み面) |
3,980mm | 制御方式 | すべり軸制御式VVVFインバーター制御・IGBT素子使用 |
重量 | 89.5t(機関車本体) |
ブレーキ方式 | 電気司令式空気ブレーキ/回生ブレーキ装備 |
乗客数 | 運転最高速度 (加減速度) |
通常時110km/h ロータリー除雪時 20km/h |
|
製造メーカー | 川崎重工 神戸工場(機関車本体) |
在籍両数 | 1両 |